天使のいない12月(DVD版)

会社Leaf
OSWin98/ME/2000/XP
CPUPenU 500MHz以上
HDD1GB以上
ドライブDVD-ROM 2倍速以上
ビジュアル90点
シナリオ90点
音楽85点
エロ85点
総評85点


<ジャンル>
アドベンチャー


<ストーリー>
 主人公、木田時紀は他人との関係は『薄く、狭く』がモットーのやる気無し学生。何事もいい加減で投げやりな生活を送っていた。
 そんな彼は、ふとした偶然からクラスメートの少女、栗原透子と深く関わっていく事になる。透子は内気で不器用な性格のせいでクラスで浮いた存在になってしまっていた。
 本来、立ち入り禁止の屋上に主人公が時折出入りし、ダベっている事を知った透子は自分の『避難場所』として屋上に出入りさせてもらえるように時紀に頼む。しかし『ギブ・アンド・テイク』が信条である時紀は無知で無能な何も出来ない透子を罵る。 そしてつい、「セックスだって出来ないだろ」とまで言ってしまう。時紀はこれで透子が諦めるだろうと思ったが、透子は引き下がらなかった。口論の末、二人は勢いでその場限りの関係を結んでしまう。
 これが引き金となり、主人公の周囲の環境が激しく変化していくことになる。複数の人間の感情と行動が複雑に絡み合い、激しいシレンマとストレスの中で彼らは次第に逃避するように『身体だけを求め合う関係』にのめり込んでいく…。


<主な登場人物>

<木田時紀>(名前変更可)
 主人公。やる気無し学生。何事に対してもいい加減で投げやり。根っこは良い奴なのだが、卑屈で短期で神経質でついでに不器用なので総合的にはマイナスな少年。
 透子と関係を持った事がきっかけとなって様々な問題に直面し、思い悩む事になる。

<栗原透子>
 メインヒロイン(多分)。主人公のクラスメートだが、ゲーム本編開始前までは全く知らないも同然だった。
 勉強、運動共に人並み以下で、さらには思慮の面でも年相応に成長しているとは言えない。気弱で自己表現が極端に下手な少女。
 これまでは幼馴染のしのぶに庇護してもらっていた為なんとか学校生活を送ってこれたが、透子はなんとかして『他人に求めて貰える人間』になりたいと思っている。
 主人公と関係を持った事により、彼女の心にも大きな変化が訪れる…。

<榊しのぶ>
 透子の幼馴染にして親友。透子とは違ってクラス委員長も勤める秀才。
 自分の事もなかなか出来ない透子の面倒をよく見ている。過保護な程に。
 生真面目な性格で、主人公の様な不真面目な存在を軽蔑し、透子から遠ざけようとする。

<麻生明日菜>
 主人公がアルバイトすることになったケーキ屋の先輩アルバイト。女子大生。
 問題に直面して思い悩む主人公に的確なアドバイスを施す『大人』なお姉さん。
 ふざけているのか本気なのかわからない子悪魔的な言動で主人公をからかったりもする。

<須磨寺雪緒>
 主人公と同じ時期に同じケーキ屋でバイトを始めた同学年の少女。
 常に近寄りがたい雰囲気を放っており、自分から他人にコミュニケーションを求める事はほとんど無い。
 時折、放課後の教室でギターを弾いているらしい。

<葉月真帆>
 日々、ラクロスの練習に励む元気少女。主人公の友人、功の彼女。主人公の一学年下。
 明るく快活な性格で、それでいて気配りも忘れない気の置けない少女。
 どこか夢見がちなロマンティストで、恋愛に関しても少女らしい理想を持っているようだ。

<木田恵美梨>
 主人公の妹。血の繋がった妹。それ以上の関係では無いし、それ以上の展開も無い。(笑)
 良い意味でも、悪い意味でも、『本当にいそうな妹』。兄に向かって悪態も付くし、攻撃も仕掛ける。特に仲が悪いわけでも良いわけでもない。お互いに適当に距離を置いて生活する割とクールな兄妹。
 まだまだ子供っぽいところが残っているが、そこが可愛いかと聞かれると…微妙。人それぞれ。(笑)
 真帆とは同じクラスで親友。


<霜村功>
 主人公の数少ない友人。明るく、話しかけ易いタイプ。卑猥な事にも興味深々な健全な男子学生。
 一見、楽しい事にしか考えの及ばない男にも思えるが、交友関係の狭い主人公の事をそこそこ気にかけているようだ。(主人公は気付いていないが)
 現在、後輩の真帆と交際中。


<ビジュアル―90点>
 キャラクターデザイン兼原画はなかむらたけし氏(透子、しのぶ、真帆)とみつみ美里女史(明日奈、雪緒)。グラフィック監督に甘露樹氏。そしてリーフCGチーム。
 素晴らしいの一言。少し淡い感じの色使いがゲームの雰囲気の合っているし、村様とみつみさんの原画は相変わらず見事。真似できねぇ。
 ただ、イベントCGをもうちょっとだけ多くして欲しかったので厳しく90点。もうちょっと数があったなら文句なしで100点だった。


<シナリオ―90点>
 シナリオはすっかり人気者になった三宅章介氏。
 PCゲーム雑誌での情報解禁直後のころの宣伝文句は『セックスから始まる恋愛』だった気がするのですが…(違ったらごめんなさい)。実際にはもうちょっと複雑でシビア。
 主人公、木田時紀は栗原透子と関係を持った事を始まりに、各ヒロイン達と出会い、彼女らの抱える心の問題と向き合って行くことになります。しかし主人公もヒロイン達も不器用なのでなかなか解決の糸口は見つからず、むしろ話はどんどんこじれて行きます。 あまりにも純粋で真剣であるが故にすれ違い、葛藤し、傷ついていく主人公とその周囲のキャラクター達。伝えたい想いがあるのに心を繋げる事ができない。いや、そもそも繋げるなんて事自体が不可能だ。最後に残るのは身体だけ。身体と身体の繋がりだけがかろうじて自分達の心を癒してくれる。 それが刹那的な感情から来る過ちであると解っているのに止めることができない。それがこのゲーム全体を覆っている大きな流れです。勿論、各ヒロインによって抱えている問題がそれぞれ違うので差異はありますが。
 テキストは頭から尻尾までずぅーっと鬱系です。なにせLeaf至上最強の卑屈主人公の一人称なので。人によってはそこでもう嫌悪感を覚えてしまう人もいるでしょうが、そこはぐっと我慢。頑張りましょう。 話は基本的に主人公と透子を中心に動いていき、主人公がそこでさらに別のヒロインとも絡んで(Hな意味でなく、話が)いく事によって展開していきます。通常のギャルゲーと違い、『この娘を狙って攻略すれば、その娘とラブラブになっておしまい』というような事はありません。全く。
どのヒロインを攻略するにしても、主人公達は激しく傷つき、多くのものを失う事になります。それらを乗り越えて…、いや、乗り越えられない場合すらあるのですが、とにかくその先に何かしらを見い出す。というのが大筋になるのでしょうか。大団円的ななんの不安も無いハッピーエンドからは程遠いですが、なんの救いも無い絶望エンドという事もないのでご安心を(?)。
 ボロボロ泣いてしまうような感動系の話ではないし、心から笑えるような楽しい話でもない。ただただ陰鬱になるだけのアンハッピーエンド系とも違う。プレイ中、テンションは下がるんだけどクリアしてみると不思議と嫌な気分じゃない。全部丸く収まったわけではないけど、何か、先が見えそうな気がする。『彼ら』の今後に興味が出てくる。そんな気分にさせる不思議なストーリーですね。


<音楽―90点>
 Leaf作品ではお馴染みの下川直哉氏、石川真也氏、中上和英氏、松岡純也氏の四名です。
 見事です。…見事なのですが、…前作『Routes』のサウンドが素晴らし過ぎたせいでしょうか、確かにBGMとしては申し分ない出来なのですが前作と比べてしまうと…うーん…って感じですね。まぁ、『Routes』は特にBGMに気を使った作品だったようなので仕方ないのかもしれませんが…。でもこのゲームのサウンドもかなりのレベルを持っている事は本当です。…サントラ買うかも。
 ああ、あと、効果音がやけに凝ってて種類豊富だったのが妙に好感持てました。


<エロ―85点>
 今回、セックスがテーマの一部として描かれていることもあってか、数多めかつ濃いめです。
 回数も各ヒロインにつき2〜4回くらいあります。…が、テキストが鬱寄りなので実用度はどうでしょう…。ストーリーとしては評価できるのですが、それ故に萎えてしまうかも。
 それでもまあ、しのぶと明日菜はその中でも割と使えそう(死)な感じです。


<総評―85点>
 多分この作品は『オススメ!!』と声高々に宣言できるタイプのゲームではないのだと思います。
 でも僕はあえてオススメさせていただきます。
 ハッキリ言って人を選ぶ内容です。プレイした人間によって評価は大きく分かれることでしょう。(Leafも覚悟の上で造ったのだと思いますが)
 それでも僕はこのゲームは決してプレイして損をすることはないと思うのです。
 どこがそんなに良いのかと聞かれても正直、具体的には答えられません。でも実際にプレイしてみれば何か心を打つものがあると思うんです。
 プレイしてどんな感想を持つのかは人それぞれですが、でも『損』はしません。きっと。オススメです。



<以下、管理人のきわめて個人的な感想。ネタバレ含む。注意>

 僕がプレイし終わって感じた事は「ああ、これでこの娘達はやっと普通に恋愛できるんだな」って事です。
 主人公を含む、登場人物達の多くはその心に様々な問題を抱えており、外見上は普通でも内面では非常に不安定な状態にありました。そして主人公時紀はそれらと関わることによって、彼女達と一緒に一度は落下していってしまいます。
 時紀は心の底には優しく真剣な想いを隠していますが、いかんせん未成熟で、不器用で、馬鹿です。そのせいで彼はヒロイン達を救うどころか一緒に落ちていってしまうのです。
 しかし、僕はそんな時紀だからこそヒロイン達が堕ちていくのを止める事が出来たのではないかと思います。
 例えば仮に、こみっくパーティーの千堂和樹のような熱血で才能もある主人公がこのゲームのヒロイン達と出会い、一生懸命関わったり説き伏せたりしたとしてもヒロイン達を救えたかどうか…。多分無理だったでしょう。
 優しさを持ちつつも弱い心の時紀が彼女達と関わり、一緒になって落下していき、しかし落下しつつもその想いだけは常に真剣な時紀だったからこそ、最終的にヒロインの落下を阻止する事が出来たのではないだろうか。と。
 エンディングを迎えた時点では彼らは何も手に入れていません。ただ失っただけ。失ったものの中には掛け替えのないものだったはずのものも含まれていたでしょう。前に進む力を得たわけではない。ただ、立ち止まることはできないのだと思い知らされただけ。
 僕らプレイヤーにとってそれはエンディングでも、ゲームの中の彼らにとっては始まりだったんだなぁ。…と思うのです。
 普通のギャルゲーならば幸せになっておしまいですが、このゲームに関しては『彼ら』の今後の行く末が気になる。興味が出てきます。

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